ラボ訪問企画
2025年12月18-19日に、MotorControl研究会のアウトリーチ活動として、慶應義塾大学 牛山潤一先生のラボを訪問しました。訪問の様子はこちらからご覧ください。
Motor Control 研究会アウトリーチ委員会
2025年12月28日執筆
張 雲山(京都大学医学研究科 博士3回)
新谷 崇樹(京都大学医学研究科 修士1回)
Motor Control研究会のアウトリーチ活動、第3回目は慶應義塾大学環境情報学部教授、牛山 潤一先生の研究室(以下、牛山研)に京都大学大学院の張と新谷が2日にわたってお邪魔させていただきました。
当初は初日に牛山研の実験装置が設置してある済生会東神奈川リハビリテーション病院を見させていただき、次の日は牛山研の実験室がある新川崎タウンキャンパスにてゼミを見学する予定でしたが、なんとキャンパスの都合で会議室や実験室への立ち入りができないということに。急遽、矢上キャンパスでのゼミ開催となりましたが、この状況を逆手にとって、同キャンパス内の慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授、牛場潤一先生の研究室(以下、牛場研)の見学も牛山先生にアレンジメントしていただきました。思いがけずとても豪華で濃い「慶應「牛牛」ラボツアー」を体験させていただきましたが、このレポートにて牛山研並びに牛場研の活動が少しでも伝われば幸いです。
2025年12月18日(木):KINARM 行動実験体験
JR東神奈川駅で牛山先生と合流した我々は、済生会東神奈川リハビリテーション病院を訪れ、KINARM(キナーム) というロボットマニピュランダムを用いた行動実験を体験させていただきました。KINARMは、これまで経験したことのない運動環境を人に対して提示し、被験者が無意識にとる行動とその環境に適応する過程を、高精度に定量化して記録できる装置です。このデータを解析することで、脳内で行われる情報の処理方法を推論・演算することが可能になります。
実験室に入ると大きなKINARM装置が私たちをお出迎え。KINARM実験の説明のため、修士課程2年の財津さんにも来ていただき、到着早々ではありましたが、早速体験に移り、張と新谷でそれぞれ20分ずつの課題を行いました。

実験中は腕と指先の位置が青い線と緑の点にシンボル化される(右)

今回の実験では、椅子に座ったまま両腕をロボットアームに固定し、目の前のモニター上のカーソルのみを頼りにリーチング動作を行う課題を体験しました。キャリブレーションによって中指の爪の位置をカーソルに合わせるように調整した後は、手元がまったく見えない状態で操作します。この状態で精密なリーチングを素早く行うことはかなり難しく、慣れるまで時間がかかりました。
課題が終わると、今回の実験について牛山先生および財津さんから説明を受けました。本課題は、東京大学の野崎大地先生が2006年に発表された論文(Nozaki et al., Nat. Neurosci., 2006)のプロトコルを再現したもので、片手運動と両手運動における運動学習の関係性を検討することを目的としています。
実験ではまず、片手(今回は右手)または両手で、スタート位置からターゲット位置まで最短距離を適切な速度でリーチングする動作を練習しました。その後、被験者には伝えずに、右手のみに右から左方向への外力を加えた状態で同じ課題を行いました。外力環境に適応した後、学習時とは異なる操作方法(片手なら両手、両手なら片手)で外力のない状態でリーチングを行い、さらに再び元の操作方法に戻して外力なしのリーチングを行う、という流れでした。
実験中、外力があることには気づいていませんでしたが、右手をうまくターゲットに持っていくことが難しいと感じていました。それでも後から結果を見ると、最初は大きく湾曲していた腕の軌跡が、徐々に最短距離に近い直線へと戻っており、この適応は約10試行程度ですぐに生じ、外力があっても滑らかにターゲットへ到達できるようになっていました。
特に興味深かったのは、操作方法を切り替えた際の挙動です。例えば、両手で外力に適応したあと、片手(今回右手)で外力なしのリーチングを行うと外力に逆らおうとする分、ターゲットより右側に逸脱しますが、徐々にまっすぐターゲットに到達できるようになります。ここで、驚いたことに、同じく外力がない状況で両手のリーチングを行うと、先ほど片手では適応したにもかかわらず、外力が存在していた時のように右手の軌跡が右側に逸脱する現象が現れ、徐々にまっすぐターゲットに到達できるようになりました。この現象は最初の適応について、片手と両手を入れ替えた場合でも同様に生じました。

上左:両手、Baseline(外力なし、開始時)
上中:両手、外力導入直後(1回目の試行)
上右:外力に適応した(140回目の試行)
下左:片手に切り替え直後(外力なし、1回目の試行)
下中:片手で適応が消去された(20回目の試行)
下右:片手で適応消去後、外力なしで両手でのリーチング
この現象は、両手学習(張)でも片手学習(新谷)でも共通して見られました。牛山先生によると、これらの結果は片手運動と両手運動の学習は、脳内で一部を共有しつつ独立した要素を併せ持つことを示唆するとのことです。とても不思議な結果であることに驚きを覚えつつ、何より、こんなにシンプルな運動課題から脳内の学習機構の複雑さが綺麗に表れる点に驚嘆いたしました。
12月19日(金):牛場研ラボ見学および・牛山研ゼミ参加
2日目は、東急東横線の日吉駅で財津さんと合流し、理工学部の矢上キャンパスにて、牛場研究室のラボ見学からスタートしました。牛場先生はご不在でしたが、牛場研助教の岩間先生に居室と実験室を丁寧にご案内いただきました。

牛場研ラボ見学
居室には、整然と並んだデスクとデュアルモニタが「プログラミングやデータ解析を軸とした研究室」という雰囲気が漂っていました。奥には大きな窓と本棚があり、神経科学・機械学習・電気生理・リハビリ医学など、基礎から応用まで幅広い分野の本がぎっしりと並んでおりました。
実験室には、高密度脳波計(128ch)やBCI(Brain Computer Interface)関連装置などの計測機器、2部屋の実験ブースがそろっていました。さらに、医療現場での使用のため、医療機器化を視野に入れた取り組みとして、ヘッドホン型頭皮脳波計が開発中であり、アウトリーチ活動として関西万博でのBCI 展示、ウェアラブル・テレメトリ技術など多様な研究展開が進んでいることが印象的で、BCIリハビリの最前線を肌で感じました。
ところで、牛山先生は2011年4月から2014年3月までのあいだ、牛場研に在籍していらしたそうで、そのころの思い出話を振り返られ、研究室の温かい雰囲気を感じる一幕もありました。

牛山研ゼミ参加
その後、牛山研のゼミに参加しました。30名ほどの学生が3〜4人ごとのグループに分かれて座り、終始リラックスした雰囲気で議論が進むスタイルが印象的でした。冒頭では牛山先生から、前日の夜に牛山先生、財津さん、私たちと餃子を食べた際に盛り上がった「酢:醤油の割合」トークで和やかにスタート。
前日の体験終了後のことなのですが、牛山先生に町中華をごちそうになりまして、餃子を注文したのですが、餃子のタレとして酢と醤油の割合が驚くほど4者4様になりました。

皆さんはどのような比率でしょうか??
ちなみに、左上:新谷(4:6)、左下:牛山先生(5:5)、右上:張(9:1)、右下:財津さん(たれを作らない)でした(括弧内は酢:醤油)。
雑談として牛山先生からゼミの冒頭にご紹介があり、緊張が解けた状態からいよいよゼミがスタートしました。
牛山研のゼミでは、先生だけではなく学生の発表前にも近況報告の時間があり、場が和んでから議論に入るというのがスタイルのようで、とても印象に残りました。質問やコメントをしやすい空気ということもあるかと思いますが、発表に対して学生の方から非常に活発に質疑応答やディスカッションが行われ、最後に牛山先生からの質問やコメント、ディスカッションという流れで進行しました。発表テーマは多岐に渡り、前日体験した運動学習課題のほか、皮質脊髄路・網様体脊髄路の役割をはじめ、感覚ゲーティング、体内時間遅延課題、皮質筋コヒーレンスなど、多彩なテーマ議論が展開されていました。
ミーティングは長時間に及びましたが、とても学びの多い時間でした。その後、学生のみなさんと昼食をご一緒し、和やかな雰囲気のまま訪問を終えました。

感想
今回の訪問は当初の予定変更から始まりましたが、牛山先生に調整していただき、「慶應『牛牛』ラボツアー」となり、工学・基礎神経科学・リハビリ・運動制御といった分野を体験・見学できる、大変貴重な機会になりました。
特にKINARMの体験は、普段行っているサルを用いた、生理実験のように長期間のトレーニングを必要とする研究とは大きく異なり、比較的短時間で適応の過程や学習の変化がはっきりと見える点が大きな違いとして強く印象に残りました。また、サルの脳神経活動は個体によっても周囲環境によってもばらつきますから、ほぼ全員で同じような結果が得られるという点も興味深く感じました。今回このような研究について実際に体験しながら説明を受けられたことで、今後学会などでこの分野の研究を見る際の心理的なハードルが下がっただけでなく、自分の研究への視野や興味が広がったと感じています。
また、研究室全体としてコミュニケーションが取りやすく、学生同士や先生と学生の距離が近い、風通しのよい雰囲気だと感じました。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では学部の早い段階から研究室に所属できるそうです。実際に、牛山研にも学部2年生から博士課程の学生までが一緒にひとつの研究室で活動していると伺い、そうした環境が活発な議論につながっているのだろうと思いました。このような研究室文化についても、自分たちの環境で取り入れられる部分は取り入れていきたいと感じました。
このような貴重な機会をいただけたことに、心より感謝申し上げます。また、我々を温かく受け入れてくださった牛山先生、岩間先生、財津さんをはじめ、研究室の学生のみなさまに重ねて御礼申し上げます。

