脳・身体・行動の融合科学

The Japanese Society for Motor Control


ラボ訪問企画 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部・柏野多様脳特別研究室 

2024年3月11日に、MotorControl研究会のアウトリーチ活動として、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部・柏野多様脳特別研究室を訪問しました。訪問の様子はこちらからご覧ください。

Motor Control 研究会アウトリーチ委員会

2024年3月18日執筆
奥内 蒼馬(京都大学人間環境学研究科 修士二回)

Motor Control研究会の名物企画であるラボ訪問。第二回目はNTTコミュニケーション科学基礎研究所(以下、NTT CS研)を私とMC研究会アウトリーチ委員の櫻田武先生(成蹊大学)の二人で訪問しました。

最初に、なぜNTT CS研に訪問することを希望したかというと、

①NTT CS研の研究環境を実際に見て体験したい!

②自分がこれから先の進路としてアカデミアと企業のどちらで研究するかを悩んでいて、実際に企業で研究をしている人に話を聞いてみたい!

という動機がありました。そのことをNTT CS研に伝えていただき、実験室の見学・体験・研究紹介・インタビューと非常に盛りだくさんの内容を組んでいただきました!

このレポートを読んだ方々にも僕が経験して感じたことが伝われば幸いです。

2024年3月11日(月)、小田急線の愛甲石田駅で櫻田先生と合流し、バスに乗ってNTT CS研に到着しました。研究所に入ると目の前にあのNTTマークが。そこで早速、訪問記念写真を撮影しました。

少し緊張している筆者(左)と櫻田先生(右)

実験室の見学・体験・研究紹介

記念写真の撮影後は、木村聡貴先生の案内で各実験室を見学させていただきました。まずは、NTT CS研ならでは実験環境であるスマートブルペンを見学しました。一般的な体育館を丸ごと使ったぐらいの大きさで、こんな広いスペースを実験で使えると考えるだけでわくわくしました。また、この広大な空間に人工芝が敷き詰められているほか、ピッチャーのマウンド、バッターボックスなども再現されており、よりリアルなスポーツ動作をみるための環境であるということを直接肌で感じました。こうした大規模でかつ作りこんだ実験環境はNTTだからこそ実現でき、それを目のあたりにできたのは本当に貴重な体験でした。

スマートブルペンを見てすごすぎる…と言葉を失っている筆者と木村先生(右)

その後、各実験室をめぐりながら、木村先生、南宇人先生、松村聖司先生、廣谷定男先生、高椋慎也先生、高木敦士先生、安部川直稔先生に研究紹介・実験体験をさせていただきました。どの研究も非常に面白い内容で、かつNTT CS研でしかできないような研究ばかりで、時間を押しているにも関わらずいくつも質問をしてしまいました。また、実物を見たことがなかった装置を使った実験も体験させていただき、シンプルに楽しんでしまいました。装置の中には、信号処理に秀でたNTTの技術が用いられたものもありました。また、アカデミアだと資金・スペース的に揃えるのが難しい装置(KinarmやRobot Devicesなど)も複数台あり、環境面におけるNTT CS研だからこその質的・量的な充実さを感じました。

VRゴーグルをつけて恐る恐る歩行する筆者と高椋先生(左)

ロボットアーム操作を体験して楽しんでいる筆者と高木先生(右)

インタビュー

実験室の見学ツアー、および私の研究紹介を行った後に、ラボ訪問のメインであるインタビューを行いました。「アカデミアと企業の違い」というテーマに沿って、木村先生、安部川先生、五味裕章先生にいくつか質問したのですが、アカデミアに立場をおく櫻田先生も交えて話が膨らみ、偉大な先生方の様々な考えを聞くことができました。

筆者の研究紹介の様子、右から五味先生、安部川先生、木村先生

Q:企業では研究内容の幅が狭くなってしまうイメージを持っているんですが、NTT CS研は実際どうなんでしょうか

木村:そもそもうちは、企業研究所を代表していないですね。

五味:全くね(笑)

木村:企業の多くは企業のミッションとか作りたいものがあると思います。うちはNTTの中でも2つしかない基礎研究所で、研究の自由度がとても高いです。そういった意味で、一般的な企業って思わない方がいいと思います。

Q:どういった経緯でNTTに入社することになったんでしょうか

木村:そういえば、僕も博士課程を卒業するときに同じこと(アカデミアか企業か)を悩んでいましたね。大学しか選択肢しかないって思っていたときに五味さんがNTTにいて、五味グループに入ったのが経緯です。どちらか選ぶ時に、企業かアカデミアかというよりは、「そこにどういう人がいて、どういうことができるか」を考えましたね。

安部川:僕も経緯は同じですね。「結果として、ここにいた」だけであって、企業と大学との選択としては悩んではいないですね。

木村:ここにいるメンバーはまずやりたい研究があって、それがこの研究所に限ってはできるから、ここを目指したという人がほとんどです。企業に入りたい、というモチベーションではなく、やりたいことの先がNTT CS研だったということですね。

五味:僕は二人とは全く違っていて、企業に入ってエンジニアリング系の研究開発をやろうと思っていました。そのときにNTTに声をかけていただいて割と軽い気持ちで入社しましたね。その後、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)で取り組んだ脳の研究にそれまでやっていたロボティクスの制御の知識が活用できて、この時期をきっかけに研究にのめり込んでいきました。なので、アカデミアに行きたいとかは考えていなかったけど、「クリエイティブなことがやりたくて」、研究の道を進んでいきました。

Q:アカデミアと企業のそれぞれの特徴について考えを聞かせてください

安部川:海外に行くならアカデミアの方が海外にも行きやすいと思います。若いときに3年くらい向こうで修行するとかできますしね。一方で、企業はやはりある程度の制限はあります。例えば、海外に自由に行って研究するのは難しいし、研究内容もある程度NTTの枠内での研究にはなりますね。

木村:さっきと同じことになっちゃいますけど、結局は「何を一番大事にするか」ですかね。僕は博士課程に進んだとき、スポーツの現場のことがやりたいと思ってたんです。でもメカニズムとかは結局よくわからなくて、もっと基礎的なことをやりたいと思ったんですよ。海外や学振とかも考えたけど、色々比較して考えてNTTで研究することを選びました。

五味:僕も研究環境は重要だと思います。特に、研究の自由度や資金などを重視して考えますね。

木村:資金は重要ですよね。アカデミアは自分で資金を取ってこないといけないですし。

五味:もし、自分の強い信念のもとやりたい研究があって、企業を説得できると思えるぐらいの価値を見出せるのであれば、企業を選ぶのは(資金という面から考えると)いいと思います。

安部川:行く場所や、やる研究をこだわりすぎなくてもいいんじゃないですかね。基礎研究は応用が効くから、凝り固まらずに色んな分野に取り組んでもいいと思います。海外に飛び込んで、専門外の分野に行くのもありですし。例えば、ヒトの運動やってて気づいたら聴覚やってたとかね。やってることが開発で研究から離れすぎちゃうなどの線引きが必要ですけどね。

Q:企業だと研究に集中できるイメージですが、実際に一日の中でどれくらい研究に費やしていますか

五味:150%ぐらい研究です(笑)。でもまぁ実際のところは、20%ぐらいはやっぱり雑務がありますが、それ以外は自由に使えますね。

木村:ポジションによるのはありますね。それは企業もアカデミアも同じだと思います。アカデミアとの差としては学生がいるか否かが大きく違いますね。もちろん、うちも教育はするけど、それは研究者、つまりプロとしての教育で、社会人として教育するというレベルではないです。一方で、アカデミアは教育がメインで、そういった教育をするのが大変と思うかどうかは重要だと思います。

櫻田:私は「教育するのが好き」で、逆に大学教員はその好きがないと成り立たないという面もあります。

五味:助教のポジションとかだと、かなり学生の面倒見ることもありますよね?

櫻田:はい。それを雑務と思う方は、あまり向かないかもしれませんね。学生は社会人に比べれば経験も知識もないので、それをサポートするのが役目です。

木村:人数の範囲も違いますよね。うちは2,3人と限られていますけど。

櫻田:そうですね。私立と国公立で人数も大きく違いますし。そういう意味では、(アカデミアと企業を選択する際には)やっぱり「環境の違いと、何がやりたいのか」、がコアになってくると思います。

Q:NTTからアカデミアに行く選択肢はあるんですか

木村:そういうキャリアパスも多くありますよね。NTTじゃないとできないことと、アカデミアの方ができることを比較して考えるのが良いかなと思っています。今自分の研究はすごく贅沢なことをやらせてもらっていて、環境的に大学で同じことをするのは難しいです。また、大学はポストが少ないっていう面もあると思うんですけど、企業も今競争が激しくなっていて、企業だから安泰ってわけではないですね。あとは単純にどこに行くとしても人脈はちゃんと作った方がいいですね。つくづくヒトは大事だって思います。「どこにいようが、いろんな人と付き合いがあるっていうのはやっぱり財産」で、そこは頑張らないといけないところです。受け身で広がるってことはあんまり起きないので、こうやって勇気をもってラボ訪問に来ているようなことが大事です。そういう意味で、博士課程での過ごし方も重要で、研究室で一生懸命研究するだけじゃなくて、外に出ていくのが必要だと思います。

五味:これからは海外に行くのもすごく重要です。国内だけでは研究は成り立たないからこそ、海外の人ともコネクションを作っていくべきですね。

ラボ訪問の感想

今回のNTT CS研の見学・体験を通じて、NTT CS研は「自分はこういう研究がやりたいんだ!」という研究に対する熱い思いを最大限反映した研究ができる場所だと感じました。こうした場所を実際に目で見て、身体で体験したことで、より自分の研究対象をピュアに調べることができる実験環境で研究がしたいという意欲がより高まりました。

また、先生方へのインタビューを通じて、先生方の研究人生などをお聞きして、「自分がやりたいこと・研究」が一番大事なんだと強く心に刻みました。環境・教育の面におけるアカデミアと企業の違いもありますが、自分が今何をしたいのか、それがどこだとできるのかじっくり考えていきたいと思いました。

また、今回の趣旨と離れますが、自身の研究を楽しそうに、面白そうに話す先生方を見て、とてもかっこいいと感じ、こうした研究者になりたい、と心から思いました。このラボ企画を通じて、そうした尊敬する先生方と関わり、短い時間でもいろんな話や考えを聞けたことは、今後の自分の研究人生を支えていく経験になると強く感じました。

このラボ企画は、僕みたいなぼんやりとした悩みから参加する方でも、第一回目のように「この先生の所に行きたいんだ」という方でも、どんな動機であれ厚くサポートしてくれます。実際にインタビューでも僕の拙い質問に対してその意図をくみ取って話していただいて…、先生方めっちゃ優しいです。なので、皆さんも積極的に応募して、各々の経験をしてみてください!

最後にはなりますが、本企画を常にサポートしてくださった櫻田先生、NTT CS研内での企画を取りまとめてくださった木村先生、様々に準備してくださったNTT CS研の先生方、そしてMC研究会理事会等関係者の方々、素晴らしい経験をさせていただき本当にありがとうございました!